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第507号 2000(H12).05発行

Click here for PDF version 第507号 2000(H12).05発行

 

 

野菜冬季栽培品目の生産性向上
積雪地域における冬季間の軟弱野菜安定生産を目指して

広島県立農業技術センター 高冷地研究部
副主任研究員 田中 昭夫

Introduction.

 野菜類,特に新鮮さが求められるホウレンソウなどの軟弱野菜に対しては,安全性や健康志向の高まりから地元産を求める市場や消費者からの声が強い。しかし,広島県内の冬野菜の主産地である都市近郊地域は宅地化等により農地が急速に減少してきており,供給が不足しがちである。

 一方県中北部の中山間地域は夏秋野菜の産地として,パイプハウスを利用した雨よけ栽培でトマトやホウレンソウ,キュウリなどの生産が盛んであるが,冬季間は低温寡日照で積雪が多いことから,ハウス倒壊のおそれもあり,これまではほとんど何も生産されていなかった。しかし,近年耐風雪性を強化したハウスが導入され始めており,積雪地帯でも冬季の野菜生産が可能となってきた。また,施設園芸では農業後継者やUターン・Iターンで就農する人が徐々に増えつつあり,周年生産に対する要望が高まってきている。

 そこで,この耐風雪性ハウスを利用して,冬季無加温または軽度の加温で栽培できる軟弱野菜の適品目を選定し,施設の利用効率を高めるために移植栽培の効果と,育苗方法,本圃での生育促進方法について検討したので紹介する。

1.栽培品目の選定

 本県の中山間地帯は,晩秋から早春にかけて気温が低く日射量が少ない積雪地帯である。そのため,作物選定に当たっては低温,寡日照でも生育するもの,生育が早く栽培が容易なもの,市場性があり継続的に収入が得られることなどを考慮し,軟弱野菜類を取り上げた。葉ダイコン,コマツナ,ホウレンソウ,シュンギク,チンゲンサイ,コカブの6品目を供試し,播種時期を11月10日,12月9日,1月10日の3回,温度を無加温,5℃,10℃の3処理として検討した。

 その結果,いずれの品目,播種時期とも温度が高いほど生育は早かった。また,いずれの品目,温度とも12月9日播種の生育が最も遅かった。ほとんどの品目で12月,1月播きの無加温栽培で抽だいが認められた。その中から,生育が早く栽培が容易で消費が順調に伸びており,市場性も比較的高い品目としてコマツナ,ホウレンソウ,チンゲンサイ,シュンギクの4品目を選定した。

 いずれの品目も無加温でも枯死することはないが,チンゲンサイ,シュンギクは氷点下が続くと凍害が発生し,商品性がなくなるため厳寒期には軽度の加温が必要である。なお,低温障害回避や生育促進,暖房費の節約のためにハウスは内張りを設けて2重被覆で栽培するのが望ましい。

 図1は,最低気温のアメダスデータとの比較だが,内張りがない場合は,外気温との差が2,3℃しかないことが多く,0℃以下の日が多い。それに対して内張りを行うことによって,0℃以下の日はほとんどなく,外気温が-15℃でもハウス内は-4℃程度に保たれるなど,保温性は格段に良くなっている。

2.移植栽培

 この期間は温度が低いため,直播では発芽まで時間がかかり,発芽揃いも悪い。初期生育も緩慢であり,収穫までに時間もかかる。特に12月播種では73~93日と長期間を要した。そこで在圃期間を短縮し,圃場の利用率を高めるため移植栽培についで検討した。なお,以下の試験は,いずれも200穴または288穴セルトレイと与作N-150培地を使用して,最低気温10℃の温床育苗とし,本圃はコマツナ,ホウレンソウは無加温で,チンゲンサイ,シュンギクは最低気温5℃加温で栽培した。

 1995年11月20日に播種または定植した場合の在圃期間は,移植によりコマツナ,チンゲンサイで18日,ホウレンソウで26日,シュンギクで34日短縮された(表1)。

 また,直播栽培では低温で花芽分化して抽だいするおそれがあるものも,移植栽培では育苗中の温度管理が可能であり,その心配が少ない。このように移植栽培は4品目いずれも在圃期間は短縮したが,試験を行った11月20日から3月末までの作付回数は,直播栽培と同じか1作多いだけにとどまった。

3.育苗期間

 伊藤らは,ホウレンソウのロック土耕栽培では,ある程度大苗を植えた方が,その後の生育が早いことを報告しており,育苗期間が軟弱野菜の生育に及ぼす影響を検討した。育苗期間はコマツナで26日,21日,16日,ホウレンソウ,チンゲンサイで31日,26日,21日,シュンギクで41日,36日,31日とし,品目ごとに定植日を揃えた。コマツナは288穴,それ以外は200穴セルトレイを使用した。

 その結果,いずれの品目も育苗期間が長いほど苗は大きくなった。また,本圃での生育は大きい苗を用いた方が優れたが,あまり育苗期間が長いと苗が老化し,生育が遅れるものも見られた。表2にコマツナ,ホウレンソウの結果を示す。苗の生育日数はそのときの育苗条件で異なるため,定植適期の目安は根鉢の形成や葉齢も考慮する必要がある。本試験の範囲ではコマツナ21~26日(展開葉2枚),チンゲンサイ26日(3~3.5枚),ホウレンソウ31日(4枚),シュンギク36日(4~6枚)であった。

4.育苗培地への施肥

 セルトレイ育苗では乾燥しやすく灌水回数が多くなるため肥料切れが懸念される。そこで育苗培地(与作N-150)への施肥の影響を検討した。施肥は,マイクロロングトータル201-40(以下マイクロロング)を使用し,コマツナ(288穴セルトレイ使用,培地量2.5ℓ/トレイ)では培地1ℓ当たり0,2,4gを,ホウレンソウ,チンゲンサイ,シュンギク(200穴セルトレイ使用,培地量3ℓ/トレイ)では0,1,2,3gを施用した。

 コマツナでは,マイクロロングを培地に加えることで苗の生育は促進され,施肥量が多いほど苗が大きくなった。定植後の生育も施肥量が多いほど促進され,4g/ℓで最も多収となった。チンゲンサイ,ホウレンソウ,シュンギクでも同様に施肥量が多いほど苗が大きくなった。表3,写真1にシュンギクとチンゲンサイの結果を示す。

 定植後の生育も施肥により促進されたが,2g/ℓ以上では差がなく,施肥量は2g/ℓでよいと思われた。コマツナとその他では施肥量が異なるが,セルあたりのマイクロロング施肥量は288穴(コマツナ)で35mg,200穴(その他)で30mgと大差なく,軟弱野菜の育苗にマイクロロングを使用する場合はセルあたり30~35mgになるように添加すればよいと思われる。

5.被覆資材の効果

 低温期に生育を促進するためには保温や加温が有効であるが,植物は気温だけでなく地温の影響を強く受けることが知られている。そこで,マルチが生育に及ぼす影響を検討した。試験は無マルチを対照にコマツナ,チンゲンサイでは黒ポリマルチと透明ポリマルチを,ホウレンソウ,シュンギクではグリーンマルチを供試した。

 いずれもマルチによって生育が促進され,収量が増加した。また土壌との接触が少なくなり,葉の汚れや病気の発生も少なかった。表4にコマツナ,チンゲンサイの結果を示す。マルチの種類は透明マルチの地温上昇効果が高いが,雑草も発生しやすいため黒マルチやグリーンマルチがよい。

 次に,温度確保のため,無加温栽培での不織布のべたがけを検討した。表5に示すようにべたがけにより,ホウレンソウ,シュンギクの生育は促進されたが,葉色が淡くなったり軟弱徒長しやすく,作物によっては抽だいや病気が発生するおそれもあるため,初期生育の促進や無加温栽培で厳しい冷え込みが予想される場合など, 短期間の使用にとどめる方がよい。

6.軟弱野菜の作付体系

 これまでの試験結果をもとに冬季間の各作物の作付可能回数を試算した。育苗時の施肥やマルチ栽培を行っていない1995年度の試験結果を用いて,定植から収穫までの積算気温と収穫時の生育を検討した結果,いずれも草丈(チンゲンサイは株重)との間に正の相関が認められた。収穫の目安をコマツナ25cm,ホウレンソウ27cm,シュンギク22cm,チンゲンサイ150gとすると,積算気温はそれぞれ394℃,458℃,552℃,573℃となった。11月から3月までの積算気温は無加温で約1500℃,5℃で約1700℃であることから,コマツナ4作,ホウレンソウ3作,シュンギク3作,チンゲンサイ3作となった。

 実際栽培で育苗時にマイクロロングを施用し,大苗育苗してマルチ栽培した1998年度の結果では,コマツナ,シュンギクで4作,ホウレンソウ,チンゲンサイで3作が栽培でき,期間中の総収量はそれぞれ367kg/a,455kg/a,236kg/a,1054kg/aであった(表6)。

 期待される作付体系は図2のとおりであるが,同一作物を連作するだけでなく,同一条件で栽培できる異なった種類のもの,例えばコマツナとホウレンソウ,チンゲンサイとシュンギクのような輪作体系を組む方が病害虫等の回避の面からも望ましい。なお,今回はいかに作付回数を増やすかを重点に試験したが,ホウレンソウは1株重が軽く,収量もやや低かったことから,作付回数は減っても株間を広げ,日中の換気等を十分にして葉柄の短いがっしりとした生育を目指す必要があるかもしれない。

Conclusion

 中山間地域に対する野菜周年供給の要望は今後ますます強くなっていくと思われる。設備投資が無理で,雨よけハウスしか利用できないとか,積雪があまりに多くて倒壊のおそれがあるような産地でも,真冬を避けて支柱や筋交い等でハウスを補強すれば,これまでの被覆期間を前後各1か月程度は広げることが可能と考える。

 

 

地形・地目連鎖系における窒素動態と
窒素流出負荷の低減(1)

静岡県農業試験場 海岸砂地分場
主任研究員 宮地 直道

Introduction

 静岡県内には中~西部を中心に台地上に茶園,その下流域の台地に面した低地に水田,そして海域に面した低地に砂地畑という地形・地目連鎖系が多く見られる。このうち茶園では高品質と高生産量を維持するという理由から,長年100kg10a-1以上の窒素が施用されてきた。一方,茶園周辺のいくつかの河川やため池からは高濃度の硝酸態窒素が確認されており,茶園から周辺域への余剰窒
素の流出が懸念される。

 このような中,1999年に環境庁による硝酸性(態)窒素の環境基準化が行われ,静岡県の茶園でも窒素施用量の削減が進められている。しかし,これまで多量の窒素施肥が行われてきたことから,茶園下の土中および地下水中には多量の窒素が蓄積していることが予想される。このため台地下の地下水中の硝酸態窒素濃度の低減を図るには,今後かなりの時間を要すると思われる。

 一方,海域に面した砂地畑でも地下水中への余剰窒素の負荷が進んでいる。砂地は保肥力,保水力が小さく施肥に際しては分施が基本とされているが,農家の高齢化もあり,作業時間の短縮を図るために施肥回数が減らされ,多肥が行われつつある。この結果,作物に吸収されないで溶脱する窒素により地下水中の硝酸態窒素濃度が高まりつつある。砂地畑ではしばしば下層の地下水を潅水利用するが,このような地域では,窒素成分を多量に含む水を汲み上げて潅水し,加えて多量の施肥を行うため,地下水中への窒素の負荷が加速しつつある。

 そこで,茶園および砂地畑からどの程度周辺域に窒素が流出しているのかといった窒素動態と,流出した窒素をどのようにして削減できるかを検討した。今回は,地形・地目連鎖系内の窒素動態の概要と,茶園から周辺域への窒素流出の実態について述べる。

2.地形・地目連鎖系内の窒素動態

 茶園の広がる台地下を流れる地下水は台地の縁辺部では湧水となり,湧水は小河川を作り,台地内から低地を通り海に注ぐ。このため,台地下の水田では長年,台地から流れ出る湧水由来の河川水を潅漑用水として利用してきた。すなわち,このような地域では台地下の地下水を汲み上げることなく,低地で容易に利用することができる。水田は水田土壌の持つ脱窒機能により,高濃度の硝酸態窒素を含む茶園排水や畑地からの排水を潅漑利用することにより水中の窒素濃度を低減できることが知られており,このようなシステムは茶園-水田連鎖系,畑地-林地-水田連鎖系の水質浄化機能と呼ばれている1)2)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 このほか,傾斜地の畑地から草地を通過する間に地下水中の硝酸態窒素濃度が低減する例3)などがあり,これらは地形連鎖系や地形・地目連鎖系の水質浄化機能と呼ばれている。ここでは台地上の茶園,その下流側の低地上の水田,砂地畑を合わせて茶園-水田-砂地畑連鎖系と呼ぶ。

 この茶園-水田-砂地畑連鎖系では茶園と砂地畑が主要な負荷源となる。このうち,茶園からの溶脱窒素量を削減するためには適正施肥と茶樹への窒素利用率向上のための施肥技術の改良が求められる。しかし,茶樹に利用されず茶園から溶脱し地下水中に混入して湧水・河川水中に存在する窒素は低地側で浄化・利用するしかない。すなわち,水田・休耕田ヘ潅漑水として積極的に利用するとともに,砂地畑ヘ潅水して作物に吸収させるのが有効である。

 一方,砂地畑からの溶脱窒素を削減するためには,適正施肥と肥効調節型肥料を活用した窒素溶脱量の削減,作付体系を活用した土壌中の残存窒素の作物への吸収などが必要である。また,砂地畑では施設栽培が盛んで養液栽培も積極的に行われている。養液栽培では廃液の処理が大きな問題になっているが,バイオジオフィルターや微生物資材を用いた浄化なども有効であろう。このような砂地地帯での窒素溶脱量の削減は海域の水質保全にもつながる(図1)。

3.茶園から流出する窒素

3-1)調査の概要

 茶園から周辺域に流出する窒素動態を明らかにするため,1997年6月より茶園の広がる台地下の湧水の水質と水量のモニタリングを1~2週間に1回の頻度で開始した。モニタリング地点はa~hの8箇所で,このうち地点a~cは隣接する茶園からの距離,比高(高さ)ともに10m以下と茶園近傍の地点である。一方,地点d~hは隣接茶園から10m以上離れた茶園遠方の地点である(表1)。

 このうち比高は概ね地表から地下水面までの深さに相当する。この他,地点fに隣接する小河川について,1994年より水質,水量のモニタリングを行った。なお,これらの湧水,河川水のモニタリングを行った地域の集水面積は約15km2で,台地上はほとんどが茶園であり人家や畜舎はごくわずかである。さらに,茶園の広がる台地縁辺部から下流側の砂地畑に向けて測線を設け,測線上に0.5~2.0mの深さに地下水調査用のパイプを設けて水質,地下水位の変化を調査した。

3-2)湧水の水質・水量の変化

 湧水のpHおよび無機態窒素濃度の経時変化を調べた。湧水中の無機態窒素の大半は硝酸態で,アンモニア態窒素がわずか(1mgL-1以下)であり,亜硝酸態窒素は認められなかった。湧水のpHは硝酸態窒素濃度が増加するにつれて低下する。茶園近傍の地点a~cのpHは茶園遠方の地点d~hに比べて低く,特に50mgL-1以上の濃度では4.0~4.5と低かった。(図2)

 この調査地区一帯では1960 年代から96年までは茶園に平均約120kg10a-1の窒素施肥が行われてきたが,環境問題が顕在化するのに伴い97年より窒素施肥量は減少し,2000年度の施肥設計では約60kg10a-1と半減した。このような施肥削減に伴い,湧水の硝酸態窒素濃度は茶園近傍の地点a~cでは98年4~6月頃から低下しはじめ,いずれも99年9月までの間に20mgL-1程度低下した。

 一方,茶園遠方の地点では同程度(地点d,g,h)ないし増加した(地点e,f;図3)。硝酸態窒素濃度が増加した理由は明かではないが,少なくとも茶園下の土中に多量の窒素が蓄積しておりその溶出が続いていると思われる。また,硝酸態窒素濃度が低下しつつある地点があるとはいえ,モニタリング地点の濃度はほとんどが10mgL-1を上回っている。

 湧水の水量は概ね降水量に対応して増減する。ただし,その変動幅は茶園近傍(地点a)では大きく,茶園遠方(地点f)では小さかった(図4)。このような水量の変化パターンの相違は,地表から地下水面までの土層の厚さや地下水層の厚さの相違に関係すると思われる。

3-3)台地から周辺域への窒素負荷の流出

 モニタリングを行った河川の硝酸態窒素濃度は94年6月から98年5月まで平均28mgL-1でほぼ一定であったが,98年8月以降は平均37mgL-1と増加した。増加の理由は明かではないが,ほぼこの時期に地点fを含む水源域の湧水の硝酸態窒素濃度も増加している。流量は湧水と同様,降水量に対応して増減する。このため,河川を通じて系外に流出する窒素負荷量(水量×硝酸態窒素濃度)は降雨期に多い(図5)。

 一方,モニタリング地点は河川の水源域の出口にあたり,99年1~9月の間の窒素流出負荷量は11,353kgNであった。この河川|は420mの水源域を流下する間にこれだけの窒素が負荷されたことになるため,水源域で河川長1mあたりに負荷される窒素量は99gNd-1と試算された。この河川の96年度の窒素流出負荷量より,河川流域の茶園からの窒素溶脱量は284kgNha-1y-1と見積もられている4)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 茶園の広がる台地から周辺域への窒素流出は,このように湧水が集まり河川となり流出する場合と,茶園下の地下水がそのまま地表に現れることなく台地縁辺下を流れ,低地下の地下水層に連続する場合がある。

 台地縁辺の林地から低地の水田,砂地畑にかけての測線上では地下水位の変動パターンはいずれも類似しており,地下水はほぼ連続して台地から低地に向かい移動していると思われる。地下水は台地から林地に入ると硝酸態窒素濃度が低下し,特に夏期は著しく低下する。さらに水田下では通年数mgL-1以下と低いものの,砂地畑下では再び増加する(図6)。

 このため,地下水は茶園下から林地,水田下へと移動する間に脱窒などにより硝酸態窒素濃度が低下したが,砂地畑下では砂地畑自体の施肥の影響で硝酸態窒素濃度が上昇したためと考えられる。このように茶園から溶脱した窒素は河川水として高濃度のまま周辺域に流出したり,地下水として地形・地目連鎖系内を移動する間に濃度が低減して低地ヘ移動するが,両者の比率がどの程度かは不明で,今後の検討課題である。

References

1)長谷川精善・奥村茂夫・小林正幸・中村稔:茶園・水田連鎖地形における富栄養化物質の行動.滋賀農試研究報告26,34-41(1985)

2)尾崎保夫:農耕地における肥料成分の動態と制御(2)-農業産地における地形作目連鎖系の活用-.農業および園芸68,657-662(1993)

3)早川嘉彦・寶示戸雅之・宮地直道・草場敬・金澤健二:地形連鎖の中での地目の変化に伴う地下水水質の変動.土壌の物理性,39-45(1997)

4)戸田任重・望月康秀・川西琢也・川島博之:静岡県牧ノ原における茶園-水田連鎖系による窒素流出負荷低減効果の推定.土肥誌65,369-375(1997)

 

 

土壌分析からみた土壌の現状と課題

青森県十和田市農業協同組合
農産担当 斗澤 康広

Introduction.

 当地域の農業は,水稲(50億円),やさい(35億円),畜産(25億円)が3本柱で,特に減反政策が強化された昭和50年代後半からは,水稲の減収分をやさいで補おうと長芋,にんにくを主体に産地化されてきた。

【生産性向上に向けて】

 これまで,生産性を向上させるために様々な取り組みをした。

①地域に合った作型と品種の導入
 いい品種,種子の更新
②効果的な肥料の組合わせと研究
 作物の生育ステージに合わせた施肥体系
 不順天候,生育不良には葉面散布剤使用
③予防効果・治療効果の高い消毒
 高価な農薬散布
④適期収穫の励行と予冷による鮮度保持等,産地化のために努力してきたつもりである。

 しかし,年月を積み重ねる毎に個々の技術格差,生産される作物の品質格差が目立ち,生産技術の高位平準化が図れないものか悩んだ。

 そんな中,昭和50年代後半から全農で簡易土壌分析装置の研修・普及がなされ,当JAも昭和56年に導入した。その後昭和62年に青森県版のコンピュータによる土壌診断システムが開発され,処方箋の見易さ,作成のスピードアップが図られた。

 また,診断精度の向上と分析のスピードアップを図るため平成2年には富士平工業製のZA-Ⅱを導入し,土壌改良材の投入による本格的な土づくり指導に取り組んだ。

【にんにく圃場の土壌診断を中心に】

 まずは,肥沃な土壌が大玉生産につながるにんにく圃場を中心に積極的に実施した。

 ①pH,②CEC,③置換性塩基(石灰,苦土,加盟),④有効態燐酸,⑤燐酸吸収係数,⑥石灰/苦土比,⑦苦土/加里比を分析し,青森県の土壌診断基準を基に処方箋を作成,土壌改良と土づくりを啓蒙・展開してきた。

 基準値は,pH:5.5~6.5,CEC:20~25me,石灰飽和度:55%,苦土飽和度:20%,加里飽和度:5%,有効態燐酸50mg/100mgを目標値として分析値を基に処方・指導してきた。

 その成果は年を重ねる毎に土壌改良がなされ,目標値をクリアした圃場が続々と現われ,収量(大玉)・品質も以前に比べ向上してきた。

 しかし,目標基準値をクリアした農家からは「もう少しL級以上の割合を向上させたい」,「にんにくの皮をもっと白くしたい,厚くしたい」等,いろいろな要望もでてきた。

 また,収量をあげる要素として「微量要素欠乏が原因している」という情報も農家の間に広まり,様々な関連資材が流通した。

 その微量要素を分析するとなると現状の装置では分析に限界があり,高い分析料を支払い外部委託せざるをえなかった。

【最新鋭の分析装置の導入】

 これまでの土壌分析装置では,前処理(秤量,抽出薬の注入),分析処理(分析試薬の添加,測定)がすべて手動で行われ,時間と労力,精度の問題等が多く,利用する農家,農協内の土壌分析業務の位置づけも「にんにく」の植付けシーズン前の一時的な対応がなされているだけだった。

 そこで,減反政策が更に強化された平成10年,増反された転作田に効率的に転作作物を導入し,減反で減収した以上の収益を確保しようと前述した問題点をクリアした殆どが自動処理を可能にした分析装置を国庫補助金,市の助成を仰ぎ導入した。

 分析項目はpH,EC,CEC,置換性塩基(石灰,苦土,加里),有効態燐酸,燐酸吸収係数,硝酸態窒素,アンモニア態窒素,ホウ素,マンガン,銅,亜鉛,鉄,モリブデン,汚染金属(カドニウム,ニッケル,鉛)の19項目である。

【にんにく圃場の問題点】

 今回はにんにく圃場の実態について分析結果からその現状を紹介する。

 装置を導入して間もなく,にんにく圃場の分析からスタートした。特にその年にんにくの品評会で上位入賞した圃場の分析を中心にその平均値を優良圃場とし,管内の平成11年植付け前に分析した圃場の分析結果を下記に示した。

□pHと有効態燐酸

 pHと燐酸の関係を優良圃場と一般圃場で比較してみるとpH6.0以上,有効態燐酸100~150mgの圃場が球径,球重の優れたものが生産される(図1)。

□置換性塩基と有効態燐酸

 置換性塩基と有効態燐酸を優良圃場と一般圃場で比較してみた。特に平成10年植付時期は不順天候に見舞われ,長雨の影響により圃場に入れないほどの状況が続き最悪の植付けとなった。平成10年の優良圃場と平成11年植付け前の分析結果を図2に示した。

 長雨の影響で植付け条件の悪かった圃場では特に置換性塩基の分析値が大きく下回っており,処方箋ではかなりの土壌改良資材を投入させた経過がある。にんにくは肥沃な圃場でなければならない。

 そのため,必要改良資材(石灰・苦土・燐酸)を単年度で数回に分けて投入する農家も増え,効果をあげている。

□塩基置換容量と窒素

 塩基置換容量は連作圃場が多く,堆肥3~4t投入されている状況から目標より高い数値を示している。塩基置換容量による肥料の種類,投入方法等も様々な角度から試験をしているところである。

 窒素成分は優良圃場では硝酸態窒素,アンモニア態窒素とも2kg前後が収量・品質がよい結果となっている。当管内ではロング肥料が配合された「にんにく専用肥料」を使用しているが,個々の農家の投入量によって窒素成分の残量にバラツキがある(図3)。

□微量要素

 にんにく圃場では,微量要素が優良圃場と一般圃場の違いがでた。特に多い要素として鉄,マンガンがあり,にんにくの肥大に大きく影響しているようである(図4)。

 優良圃場は沖積土壌が主体であり,当管内は火山灰土壌が主体であることからこの微量要素成分の差は大きい。一部微量要素資材を投入し,その効果については今後分析を重ね成分と品質の関連性について徹底調査する計画である。

【今後の利活用】

 今回にんにくについて分析結果からみた圃場の現状を紹介してきたが,にんにくの場合概ね品質,収量を向上させる処方が確立されつつある。現在にんにくのほか,ながいも,ねぎ,きゅうり,とまと,ピーマン,施設やさい,水稲など様々な作物の土壌分析・診断を実施している。

 作物によって,施肥方法,施肥量が異なり,それぞれ新たな発見と土壌改良,施肥設計の問題・課題が浮き彫りになっており,分析データを蓄積・解析して適正施肥,適正施用によって産地作物の収量・品質の高位平準化を図っていきたい。